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モディリアーニとパルミジャニーノ [フレスコ画の世界]

似てる?



[フレスコ画の世界]のカテゴリーですが、今回は油彩画の作品をとりあげます。

ただいまレオナルドの「受胎告知」が日本出張中。

…で、ちょっとだけ寂しいウッフィツィ美術館の至宝の一つ。

パルミジャニーノ
「長い首の聖母」
Parmigianino (1503-1540)
Madonna dal Collo Lungo 1534-40


Galleria degli Uffizi, Firenze

聖母と幼子、天使達が描かれていますが、正確な主題は不明。
後方に聳える列柱も、右下の人物も解釈が一定していません。
美しくも謎の多い作品です。

そして長い首の婦人像といえばモディリアーニ。
例えばこの作品。

アメデオ・モディリアーニ
「ジャンヌ・エビュテルヌの肖像」
Amedeo Modigliani(1884-1920)
Portrait of Jeanne Hébuterne 1918


Norton Simon Art Foundation, Pasadena, CA.
ジャンヌ・エビュテルヌ (1898 -1920)は画家の妻です。

この2枚の絵はとても雰囲気が似ています。
どこがどう似ている?
モディリアーニの絵を左右反転させて、傾きも少し修正して並べてみます。

頭と首の傾き、肩のラインなどが良く似ています。
ジャンヌの顔は、モディリアーニの彫刻の顔そのもの※ですが、
でも両者の鼻の角度も良く似ています。

※例えばこの作品
Amedeo Modigliani
Stone Head. 1911-12


モディリアーニ「首像」 アフリカ彫刻の影響を受けています。

はっきり異なる部分もあります。例えば右手の方向。
でも傾きを合わせてみると、やはり両者はとても良く似ています。
それが冒頭の画像です。

これは偶然でしょうか?
それともモディリアーニは、パルミジャニーノの作品を意識していたのでしょうか?

パルミジャニーノはマニエリスモ(Manierismo)の代表的な画家の一人。

マニエリスモを英訳すればマンネリズムmannerism。
模倣と繰り返しを指向する芸術傾向…と、身もふたもない意味合いになってしまいますが、これには18世紀のドイツ古典主義的美術史観が反映しています。
不当に貶められたマニエリスモが再評価されるのは今世紀始めです。
マニエリスモはマニエラmaniera=礼儀・作法から派生した言葉。
洗練された宮廷文化の知性と優雅さを、芸術様式として表現することを目差しています。
ルネサンスの巨匠達、レオナルド、ミケランジェロ、ラフェエッロが完成させた至上の芸術の「マニエラ」から学ぶことが、目的に至る最良の道とされました。

例えばこんな具合に。

レオナルド・ダ・ヴィンチ
「白貂を抱く貴婦人」(部分)
Leonardo da Vinci(1452-1519)
La dama con lermellino 1483-90(parte)


直接の関係があるという確証はありませんが、パルミジャニーノの「長い首の聖母」の手に良く似ています。

同じ絵の全体です。
Leonardo da Vinci
La dama con lermellino

マリエリスモに話を戻します。
現実のマニエリスモは、宮廷文化の密室的洗練に呼応した多義的で難解な主題、過度の優美さの追及、洗練を極めた技巧によって、秘義的な色彩を強めます。
ルネサンスの栄光はすでに過去のものとなり、没落し混迷を極めた社会の中に生きる画家達の心情をも反映させた奇妙な作品群。
しかしその独自性に溢れた芸術は「芸術のための芸術」を標榜する近代芸術の魁と見なされるようになるのです。

現代の画家で最初にマニエリスモに興味を示したのはピカソです。1917年に晩年のルノワールの様式にヒントを得たピカソの新古典主義時代が始まりますが、その直前、イタリア滞在中に短い「マニエリスモの時代」が存在するのです。
一方、モディリアーニがこの絵を描いたのは1918年。
もし彼がマニエリスモを意識していたとしたら最も早い作例の一つといえるかも知れません。

モディリアーニはユダヤ系イタリア人としてリヴォルノに生れます。
20歳でパリに移る前に、ヴェネツィアのアカデミアで古典主義的な美術教育を受けています。
異邦人としてパリで暮すモディリアーニは、イタリア人としてのアイディンティティを探していたのでしょうか。
モディリアーニはロマネスク彫刻やイタリア美術史の巨匠達に彼のイタリアを見つけたのだと思います。フジタにとって白い磁器のマチエールや、墨の描線が日本そのものであったように。

モディリアーニの裸婦から、その探求の痕跡を追ってみましょう。

「青いクッションの横たわる裸婦」
Reclining Nude with Blue Cushion. 1917


Collection of Mr. Nathan Cummings, NY, USA

次に掲げるジョルジョーネの作品から多くを得ているのは明らかです。
上半身、右肘、頭、両乳房の位置関係はそのまま模写といっても良いほどです。
ジョルジョーネで特徴的な左手は描かれていませんが、いったん描いた後で消し去ったようにも見えます。
臍の位置の変更は腰を手前に向けて起こしたため?
全体としてまだ習作然としています。

ジョルジョーネ
「眠れるヴィーナス」
Giorgione (1477-1510)
Venere dormiente 1510


Gemäldegalerie, Dresden

言うまでもなく、このヴェネツィア派の巨匠のヴィーナスは、ヨーロッパ絵画における裸婦の古典の一つ。
そういえば僕も10年前、こんな絵を描いています。
http://www005.upp.so-net.ne.jp/Firenze/veneri.html

ところでモディリアーニはこの「習作」をどう発展させたのでしょう。

「横たわる裸婦」
Reclining Nude. 1917


Staatsgalerie, Stuttgart, Germany.

豊かな胸が与えられた上半身と、引き締まった胴、胸と呼応するように強いカーブが与えられた彫刻的な腰のライン。
自信に満ちた強く明快な造形。そして蠱惑的な瞳。
モディリアーニはこうでなくっちゃ。

【画像の追加です】

パルミジャニーノ
自画像
Parmigianino
Autoritratto 1524

Durchmesser 24,4 cm
Vienna, Kunsthistorisches Museum
ウィーン美術史美術館のこちらも至宝。
凸面鏡のように立体的に加工された板に描かれています。
パルミジャニーノはこの絵をポートフォリオのように携えてローマに乗り込んだのです。

パフさんのコメント↓にある
ボッティチェッリ
「ヴィーナスの誕生」
Sandro Botticelli (1445-1510)
La nascita di Venere 1485 278 x 172 cm

Galleria degli Uffizi, Firenze


(左端は左右反転させたもの)
こうして並べてみると、確かに良く似ています。中央パルミジャニーノの上半身のポーズは左の反転画像から、ただし胸に置いた右手は、右の画像から…というようにも見えてきます。

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ついに締切り?!

【みるこんノミネート作品】のご紹介です。

作品No.1 にこちゃん「ヨーグルト入りフォカッチャ」
http://blog.so-net.ne.jp/nicolasgarden/2006-12-12

作品No.2 パフさん「牡蠣のみそチャウダー」
http://blog.so-net.ne.jp/go_go_kumachan/2006-12-24

作品No.3 himikaさん「超カンタン!アイスクリーム」
http://ameblo.jp/himika44/entry-10022720697.html
himikaさんのブログ「ねこぢえ」は
http://blog.so-net.ne.jp/himika/

作品No.4 パフさん「サーモン・クリームでパスタ」
http://blog.so-net.ne.jp/go_go_kumachan/2007-01-21

作品No.5 にこちゃん「ミルクブレッド」
http://blog.so-net.ne.jp/nicolasgarden/2007-02-09-1

作品No.6 旅爺さん「イタリアンカプリチョーザ」
http://blog.so-net.ne.jp/tabijiisan/2007-02-20

作品No.7 ゆめさん「肉パイロール&かぼちゃのニョッキスープ」
http://blog.so-net.ne.jp/yume_yume/2007-02-21

作品No.8 manzoさん「黄金色のリゾット」
http://blog.so-net.ne.jp/pio/2007-04-03

作品No.9 Nicoliさん「ブルーベリーのババレーゼとカフェラッテのジェラティーナ」
http://blog.so-net.ne.jp/nicoli/2007-04-15

作品No.10 まどかさん「ミルフィーユケーキ ジャム&ヨーグルト」
http://ameblo.jp/firenze00/entry-10030916275.html

作品No.11 otsuさん「チコリのハム巻チーズ掛け」
中身はこちら↓
http://ameblo.jp/firenze00/entry-10030917868.html
otsuさんの「ブッシーラペール・ニュース」は
http://blog.so-net.ne.jp/bussy-la-pesle-otsu/

作品No.12 Kumiさん「カマンベールたくあんのせ」
http://ameblo.jp/firenze00/entry-10030910423.html

作品No.13 絵葉子さん「イタリアンカラーのズッパ」
http://blog.so-net.ne.jp/ebako/2007-04-13

作品No.14 Taekoさん「オレンジケーキ、じゃがいもの簡単グラタン」
http://blog.so-net.ne.jp/taekoParis/2007-04-17-1

ほんとうはついに締切りの日を迎えた「みるこん」
…ですが、ご応募予定で出遅れちゃった方は、審査結果発表(5月1日予定)まで裏口あけておきますのでご一報を!

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コメント 21

主題とは異なりますが、私はパルミジャニーノの絵に強い関心をもちました。素晴らしい!
モディリアーニ系の絵は、ちょっとすこし理解に時間がかかるかもしれません。。。
by (2007-04-21 02:18) 

yoku

上野の写実展、行けなくて残念でした。
ところで、モディアーニは好きな画家です。そうですか、アフリカ
のプリミティブアーツの影響ですか?確かキュビスムの
作家たちも大分影響を受けているのですよね。
それにしても大変な考察です。
by yoku (2007-04-21 05:34) 

お散歩爺

フィレンツェに戻られたのですね。今の気候は花盛り、なのでしょうね。
流石に芸術家ですね、私などは絵を見ても素通り状態で気がつかないことばかりです、教えられても繰り返して見ても中々気ずきません。ただただ感心するばかりです。
by お散歩爺 (2007-04-21 06:06) 

Nicoli♪

モディリアーニとパルミジャニーノ の考察に、目をみはりました。
美術って奥が深いなぁ・・・と改めて思いました♪
by Nicoli♪ (2007-04-21 08:37) 

つぐみ

すごい考察、勉強になります。
モディリアーニもまた見方が変わってきます。
それそれの画家たちがそれぞれに巨匠や先輩画家からいろいろ学んでるんですね。
by つぐみ (2007-04-21 09:11) 

凄い違いは気づきませんでした。さすがプロの目。
先人たちの絵を観察しているうちに似てきたんでしょうね。
仕事でも真似てから自分物にしていくのと原理的には同じですね。
「受胎告知」は今日本にきています。見にいけるかな・・・
by (2007-04-21 09:18) 

yk2

洋一さん、TBありがとうございました。

以前僕のblogでモディリアーニの絵にちょっとふれた時、洋一さんが書かれておられた「マニエリスモ」。自分で調べてみても、専門的、学術的な知識がないと理解出来ない様な解説ばかり。ムズカシクて理解出来なかったので、今回こうして噛み砕いた解説をして下さってとても嬉しいです。

モディが受けたイタリア巨匠達からの影響云々って、図録集にも文章では書いてあるけど、その場に具体例が写真表示されてないものが殆どなので、ピンと来なかったんです。でもこうしてパルミジャニーノとの構図比較や影響を、作品を並べて見せて貰えると百聞は一見にしかず。すぐになるほど!と理解出来ますものね。今、渋谷Bunkamuraでモディと画家としてのジャンヌのふたりにフォーカスした展覧会が行われていて、先週観て来たばかりなので尚のことタイムリーでした。

洋一さんの『二人のヴィーナス』、以前から拝見してますが密かに(?)お気に入りの作品です。10年前は今よりずっと写実的なタッチでしたね。それにしても、何故にリンク?。せっかくだから、ここに並べてみなさんにご覧頂けばよろしいのに!(もったいないです!!)。
by yk2 (2007-04-21 09:29) 

TaekoLovesParis

興味深く読みました。
洋一さんの分析力は、いつも、すごいですね!読んでいると「目から鱗」
状態。モジリアニの絵の左右反転という着想に「なるほど!」。
イタリア人としてのアイデンティティを、フジタにたとえてわかりやすく
説明してくださっていて。。
プロの画家で、たくさんの絵をご存知で、さらにいつも探究心を持っていらっしゃる洋一さんから、無料でこういうことを学べて、トクしています。
by TaekoLovesParis (2007-04-21 10:19) 

newyork

美術の歴史も音楽の歴史と似ていますね。どの時代にも芸術家には葛藤があり、自分を見つける旅に出るのですね。ある時は巨匠を真似てみたり、ある時は極端なことしてみたり。あちこちに寄り道をしながら、人生の目的地に進んで行く。その目的地の光が見えた芸術家が真の芸術家になるのですね。忘れずにいたいです。
by newyork (2007-04-21 11:43) 

匁

plotさん こんにちは
モリジアーニの首の長さは長いのは有名ですが
今回、手の位置のしぐさと大きいのに気づきました。
巨匠もいろいろ名画を模写しているんですね。
by (2007-04-21 15:13) 

nicolas

一瞬、パルミジャーノかと(笑)
こうして並べて考察・・高校の美術の時間以来です。
個性と、どう思って描いてるのか・・まで炙りだされてきてオモシロイです。
by nicolas (2007-04-21 16:41) 

柴犬陸

手はいろいろに語っているのですね。
by 柴犬陸 (2007-04-21 16:47) 

暇なフォトグラファー

勉強になりますね~~
by 暇なフォトグラファー (2007-04-21 16:51) 

toraneko-tora

こうして見せてもらうと・・・ナルホド・・・・・似てる!! って良く解ります
by toraneko-tora (2007-04-21 18:54) 

Bijoux

受胎告知。
先日、友人からお土産ハガキを貰いました。
本物も観てみたいなぁ。。。
by Bijoux (2007-04-21 20:24) 

ぱふ

そういえば、ボッティチェッリのアフロディテも、似たような具合に
首が長いですよね。。あれは偶然? やはり影響を与えている?
どうなんだろう。
by ぱふ (2007-04-22 21:25) 

plot

W画伯の盗作事件もあっただけに「モディリアーニいじめ」と受け取られないか、ちょっとだけ心配だったのですが、皆さんのコメントを読んで安心しました。

nekoさん、newyorkさんもおっしゃっているように仕事でも芸術でも、先ず、尊敬する人や作品を真似てみるというのは極く自然なことですよね。

Ikesan、
クラシック音楽とポピュラーミュージックの違いかも知れませんね。後者は好き嫌いがよりはっきり出るのかも知れませんね。

yokuさんはモディリアーニ好き。僕は好きになったり嫌いになったり。今はとても好きな作家の一人です。

旅爺さん、Nicoli♪さん、つぐみさん、
仕事柄、自信過剰と自信喪失の間を忙しく行き来していると、作家が何を意識していたのか、問題意識の在りかが気になります。知られていなかった影響関係を発見すると、先達なき天才など存在しないのだ…と、ちょっとだけ安心したりします。

yk2さん、Taekoさん、
僕の絵の観方は体系だってもいないし、思いつきの域を出ていません。
しかし現代日本の、画家も評論家も一般に勉強不足、探求心不足だと思います。もっと絵画に興味を持って新しい議論を展開して欲しい。
特に若い世代の美術評論家には、すくなくともプロフェッショナルな鑑賞者としての気概を持って、誰にも観えなかった世界を教えて欲しいと切望しています。

にこちゃん、
パルミジャーノもパルミジャニーノのともにパルマの生れってことですね。
-ninoという縮小語尾がついているのは同性愛者でお稚児さんのような美青年(自画像をupしておきます)だったからかも知れません。

tigerkitaさんm,柴犬陸 さん、暇なフォトグラファーさん、toraneko-toraさん、
絵画の観かたはいろいろあると思いますが、画家自身の知的遍歴や人間性にも興味をもつと絵を観る楽しさがひろがりますね。

Bijouxさん、
「受胎告知」強硬な反対論=「かけがえのない至宝を危険に晒すな」を押さえ込んでの日本行きの実現ですから、機会があったら是非、ご覧になってください。

ぱふさん、
凄い洞察です。パルミジャニーノはラフェエッロからの影響は指摘されるのですが、すこし時代が離れて当時、時代遅れと見なされていたボッティチェッリからの影響はあまり語られていません。
でもおっしゃるように並べてみてみると確かに似ています。
ボッティチェッリ→パルミジャニーノの影響関係、ありそうですね。次回是非、考察してみたいです。
by plot (2007-04-22 23:12) 

ツカ

確かに似てますね(笑)
それにしても、聖母に抱かれている幼児の体型が、
幼子にしては異様にデカイのが気になる(笑)
by ツカ (2007-04-23 01:36) 

coco030705

お邪魔致します。
なんとおもしろい考察でしょう。
モディリアーニとパルミジャニーノの絵、ほんとうによく似ていますね。
画家達は、古典の優れた作品にヒントを得て、自分の新しい作品を
生み出していったのでしょうか。モディリアーニの年月を経ても変わらない
モダンさが好きです。
余談ですが、パルミジャニーノって、チーズの名前と間違えそうですね。
(^^)
by coco030705 (2007-04-24 11:56) 

plot

ツカさん、
コメントありがとう!たしかにデカイですね。幼子に、それなりに威厳を持たせようという画家の工夫なのか、他にも妙なもの多いです。
cocoさん、ご訪問ありがとう。
今回改めてモディリアーニを観て、僕もとてもモダンな感じを受けました。制作期間の短さと、その中でもいくつかの方向性を同時に追求している側面もあるようで、もっと丁寧に観たいと思いました。
by plot (2007-05-03 01:36) 

k.ucchi

久しぶりに読みまして勉強しました。画像がとてもきれいですね。
by k.ucchi (2007-05-03 11:39) 

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